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2012.06.29 英Gills#1 / 無名の日本人監督、再びサッカーの母国へ
うっすらと目を開けてみた。
機内はまだ暗く、つけっ放しにした読書灯の明りはいつの間にか誰かに消されている。

まるで邯鄲のような、長くて短い夢だった。
田舎の弱小チームに過ぎなかったジリンガムFCは私が就任するや否や瞬く間に下部リーグを勝ち上がり、チャンピオンシップで破竹の十連勝。クラブ史上初のプレミアリーグ昇格へ突き進む……そんなブリティッシュドリームを見ていた。

隣で眠る白人男性の強烈ないびきと酒の臭いに現実へと引き戻される。
「これだからエコノミーは。今度日本へ帰る時は、せめてビジネスに乗りたいものだな」
長い時間折り曲げられて強ばった脚をさすりながら私は嘆息した。



ヒースロウ空港から列車を乗り継ぎ、ロンドン南東にあるケント州ジリンガムに降り立った。私の監督としてのキャリアはここから始まる。

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これまでサッカーとは無縁の仕事に従事してきた日本人の私が、サッカーの母国イングランドで監督業に就くことになった経緯など、話しても詮無きことだ。過去を語ることに価値はない。大切なのは未来のために今を積み重ねること。荷解きもほどほどに、私は郊外にあるジリンガムの練習グラウンドへ車を走らせることにした。

フットボールリーグ2。世界中から注目を集めるプレミアリーグを頂点に、チャンピオンシップ、フットボールリーグ1と続くイングランド下部リーグ。今季から私が指揮を執るジリンガムFCは更にその下のリーグ2に所属する、実質四部クラブだ。

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とはいえ、さすがサッカーの母国イングランド。選手のクオリティはともかく、サポーターの熱狂やスタジアム、練習設備などはその辺のJクラブを凌駕する。日本サッカーもトップレベルでは欧州の列強に比肩するレベルに達してきたが、底辺を深め、押し広げていくにはまだまだ熟成が必要なのだろう。

練習場に着くとアシスタントコーチの下、選手たちはミニゲームに興じていた。ボール扱いこそ雑だが、ボディコンタクトは当たり前のように激しい。私はあえてグラウンドの中へ入らず、見学しているサポーターたちの間に混じり、ピッチ脇から練習を見守ることにした。

しばらくそのまま選手の動きを観察していると、青いレプリカユニフォームを着た年配のサポーターが話しかけてきた。

「ヘイ、ジャパニーズ。観光かい?」
「いや、この町へは仕事で来たんだ。しばらく滞在することになる」
「そうか。葡萄畑と煙草以外、何もない町だが、ゆっくりしていってくれよ」
「ところでカーチス・ウェストンってのは彼かい?」

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私は今しがた強烈なミドルシュートを放った褐色の選手を指差しながら問うた。
彼はまるで自分の子供を褒められたように笑みを浮かべながら、誇らしく頷いた。

「カーチスはこの町の宝さ。ナカタやホンダよりずっといいよ」

それはない、と心の中で返しつつ、私はウェストンの動きを注視した。
なるほど、キック&ラッシュが中心の英下部リーグで、正確なショートパスを味方に配給するウェストンの基本技術は確かに目立つ方だ。守備はあまり上手くないようだが、彼がいれば私の考える新システムもおそらく機能するだろう。

日も沈む頃、アシスタントコーチが練習の終了を宣言し、選手も見学客もそれぞれ解散した。駐車場へ向かう道すがら、先ほどの年配サポーターにまた声を掛けられた。

「ジャパニーズ。よかったら今から一杯飲みに行かないか?奢るぞ」
「ありがたいが、また今度。早く帰って明日からの仕事に備えなくちゃならない」

日本人はこれだからなあ、と呆れるように彼は肩をすくめた。

「こんな田舎でそんな熱心にする仕事があるかい」
「ああ」

私は振り返り、彼に近づいてそっと耳打ちした。

「ジルズをプレミアへ連れて行くことさ」

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